「施設訪問記「BOUQUET BATON(ブーケバトン)」」。【老犬ケア】

2026.08.26 (老犬ケア)

施設訪問記「BOUQUET BATON(ブーケバトン)」

BOUQUET BATON(ブーケバトン)_猪股里美今回訪問したのは、茨城県龍ケ崎市にある「BOUQUET BATON」です。

高齢犬や介護が必要な犬だけでなく、若い犬や大型犬など、幅広い犬たちを受け入れています。

施設を運営する猪股さんの原点にあるのは、15年以上続けてきた犬や猫の保護活動です。
会社員として働いていた頃から、飼育を続けることが難しくなった犬や猫の相談を受けたり、行き場を失った猫を保護したりと、さまざまな命に関わってきました。
保護した子を新しい家族へつなぐ活動にも携わる一方、一度自分の家に迎えた子については「うちに来たら家族」という思いで一緒に暮らしてきたといいます。

その後、息子さんたちが独立したことをきっかけに、犬や猫たちがよりゆっくりと暮らせる環境を探し始めました。
大型犬や保護してきた猫たちとの暮らしを考えながら、約1年かけてさまざまな地域を実際に訪れ、たどり着いたのが現在の龍ケ崎市でした。
実際に暮らし始めてみると、龍ケ崎市は自然が身近にあり、犬たちと過ごす環境としても心地よい場所だったといいます。

そして何より猪股さんが魅力に感じているのが、地域の方々のあたたかさです。

施設を始めてからも周囲の方に声をかけてもらったり、さまざまな場面で助けてもらったりと、人とのつながりに支えられてきました。
猪股さん自身、「龍ケ崎に来て本当によかった」と感じるほど、素敵な方々との出会いに恵まれているそうです。

現在のBOUQUET BATONにつながる大きな転機となったのが、移住後に経験したペット火葬場での仕事です。そこで猪股さんは、犬や猫の最期と、それを見送るご家族に接することになりました。
大切に育ててきた飼い主さんであっても、「あの時もっとできることがあったのではないか」「あの時の選択は正しかったのだろうか」と悩み、後悔の言葉を口にする姿を数多く見てきたそうです。

一方で、老犬の介護に疲れ切ってしまっている飼い主さんの姿にも出会いました。
大切な家族だからこそ、自分で最後まで見てあげたい。
けれど、夜間のお世話や介助が続けば、心も体も疲れてしまうことがあります。

特に大型犬の場合、介護の負担が大きくても預けられる場所がなかなか見つからず、一人で抱え込んでしまう方もいたといいます。
そうした姿を目の当たりにするなかで、「自分にできることがあるのではないか」という思いが強くなり、これまでの保護活動や動物のケアに関する経験を生かしてBOUQUET BATONを始めました。


BOUQUET BATONが大切にしているのは、介護が必要になってからだけではなく、元気な頃からその子を知ることです。

若いうちはペットホテルやデイケアとして利用してもらい、その子の性格や好きなこと、苦手なこと、普段の様子を少しずつ知っていく。
そして年齢を重ね、いつか介護が必要になった時にも、「この子のことを知ってくれている場所がある」と思ってもらえる存在を目指しています。

実際に施設を始めてみると、家庭的な環境だからこそ安心して預けられるという声も多かったそうです。
食事の様子や普段の過ごし方にも目が届きやすく、自宅に近い雰囲気のなかで見守ってもらえることが、飼い主さんの安心にもつながっています。

また、大型犬や超大型犬を受け入れていることもBOUQUET BATONの特徴の一つです。
犬の大きさだけで線を引くのではなく、小さな犬も大きな犬も、その子に必要なお世話を考えながら向き合っています。
猪股さん自身が大型犬の扱いに慣れていることもあり、他では預け先を見つけることが難しかった飼い主さんから相談を受けることもあるそうです。

そしてもう一つ、猪股さんが大切にしているのが「預けることも愛情のひとつ」という考え方です。

人の介護では「レスパイトケア」と呼ばれる考え方があります。
介護する人が一時的に介護から離れ、心と体を休めるための時間をつくることです。
老犬介護も同じように、一日でも数日でも安心できる場所にお願いし、ご家族自身が休むことが、その子との暮らしを長く大切に続けるために必要なこともあります。少し休み、また笑顔で愛犬と向き合う。

BOUQUET BATONは、そんな時間を支える場所でもありたいと考えています。

BOUQUET BATON(ブーケバトン)_ワンちゃんの様子
施設名の「BOUQUET BATON」には、人とのつながりを大切にする猪股さんの思いが込められています。
花束を受け取った時のような喜びを、人から人へつないでいく
そんな思いを表した名前です。

そして、その思いは龍ケ崎市での暮らしのなかでも、自然と形になっているように感じます。
「龍ケ崎には本当に素敵な方がたくさんいるんです」
施設を始めるなかで生まれた地域の方々との縁や、そこからさらに広がっていく人とのつながり。
BOUQUET BATONという名前に込められた思いと、猪股さんがこの土地で築いてきた関係が、どこか重なっているように感じました。

今後は老犬介護だけでなく、動物介在活動にも力を入れていきたいといいます。
高齢者施設などを訪れ、犬と触れ合った方が笑顔になったり、時には涙を流して喜んだりする姿を見てきた猪股さん。
犬が人の心に寄り添う力を感じたことから、地域の高齢者施設などでの活動や、人に穏やかに寄り添える犬の育成にも取り組み始めています。

BOUQUET BATON(ブーケバトン)_ワンちゃんの様子
最後に、高齢犬の介護やこれからの暮らしに不安を抱える飼い主さんへのメッセージを伺いました。
猪股さんが伝えたいのは、「預けることを悪いことだと思わないでほしい」ということでした。
どれだけ大切にお世話をしていても、愛犬との別れを迎えた時には「あの時もっと何かできたのではないか」と考えてしまうことがあります。
だからこそ、いつか訪れるその時ばかりを考えるのではなく、今一緒にいられる時間を大切にしてほしい。
つらくなった時には少し休み、分からないことがあれば誰かに相談しながら、愛犬との暮らしを楽しんでほしいと話してくださいました。

取材を通して感じたのは、BOUQUET BATONが単に犬を預かる場所ではなく、その子が若く元気な頃から年齢を重ね、介護が必要になった時まで、ご家族と一緒に「犬の一生に寄り添う場所」でありたいという思いを大切にしていることでした。

犬が人に寄り添い、人も犬の一生に寄り添う。

元気な頃も、年齢を重ねてからも、その子とご家族ができるだけ穏やかな時間を重ねていけるように支えていく。

BOUQUET BATONは、犬とご家族の長い時間に寄り添いながら、その幸せのバトンをつないでいく場所でした。


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