ペットロスの心のサポート(日本グリーフ専門士協会)
2023.04.27 (老犬ケア)
本サイト「老犬ケア」のコラムの医療監修をしてくださっているのは、獣医師の先崎直子さんです。
先崎さんは獣医師として臨床現場に立ちながら、出会いから別れの後まで、ペットと飼い主さまが健康的で楽しく幸せな生活を送るためのトータル・サポート活動をおこない、特にペットの終活、ペットロスの方へのサポートに力を入れておられます。
今回のコラムでは、先崎さんの活動のひとつである「日本グリーフ専門士協会」についてインタビューをさせていただきました。
先崎さんは小さいときから動物が好きで、幼稚園の頃にご両親から、動物のお医者さん、獣医師という仕事があると聞き、目指すようになったそうです。
大学卒業後、動物病院で獣医師として働き始めました。そこでは、飼い主さんの日々の暮らしの中の不安、ペットの病気や死に対する不安を肌で感じたそうです。ただ限られた診療時間内で治療や予防をおこなうため忙しく、動物病院以外のところで飼い主さんの心のケアをおこなうことが必要だと考えるようになり、カウンセラーの学びを始めました。
その後、仲間と共に「HAAC-Education」という団体を立ち上げ、ペットの看取りや看護について、ペットが亡くなったあとについてカウンセリングをするようになりました。
時代とともに、ペットの高齢化が進み、飼い主さんとペットとの関係性も変わり、ペットが家族の一員として生活するようになってきました。先崎さんは大切な家族を亡くした方へのサポートをより学ぼうと、日本グリーフ専門士協会でグリーフ専門士養成コースを受講します。「グリーフ」とは、大切な存在を失ったときに抱える悲嘆(悲しみや嘆き)と、寝られない、食べられない、人に会うのが怖くなるなどの身体などの反応のことです。
協会の代表からペットロスの悲しみを抱えた方を専門にサポートする立場の人も必要だと依頼があり、2018年から獣医師としての知識経験を活かしてペットロス専門士の養成に携われていらっしゃいます。
グリーフケアサポートは、グリーフを抱えた方を敬い、寄り添っていくことが基本です。「寄り添う」とは、言葉でいうのは簡単でも、実際におこなうのは大変なことで、グリーフ専門士、ペットロス専門士自身が、自分と向き合い、自分の整え方を学び、安定していることが大切だそうです。
ペットを失うグリーフは人間とは違うものなのでしょうか。
先崎さんは「ペットは言葉が話せないので、飼い主に対していろいろと評価せず、飼い主さんが愛情をかければ、愛情をもって接してくれます。裏表がない存在なので、自分自身も安心してかかわることができる。それは人対人ではあまり得られない関係性であり、そういう存在を失うということは、人を失うのとは違います。」とお話ししてくださいました。亡くなって悲しいという思いは同じでも、「何を失ったか」は少し違うといいます。また、ペットの場合、ペットが亡くなるつらさを周囲になかなか理解してもらえないことで、より傷つくこともあるそうです。
日本グリーフ専門士協会では、ペットロスについて「わかちあいの会」というグループで悲しみをわかちあう場(オンラインは無料)、個人カウンセリング、ペットロス専門士の養成の3つがあり、先崎さんはすべてにかかわっておられます。
「わかちあいの会」には、ペットを亡くした直後につらい気持ちを理解してくれる人が周りにいない方、毎月参加すること気持ちを整えるリズムにされている方、ペットの命日やお誕生日が近づいて心が揺れている方、などさまざまな方が参加されるそうです。
ペットロス専門士養成コースは全4回、現在はオンラインでおこなわれています。受講生の中には、専門士を目指す方だけでなく、今一緒にいるペットといつか別れるときの心構えを知っておきたいと受講されている方、身近な方がペットロスになってどうしたらいいか知るために参加される方、ペット関係のお仕事をされている方もいるそうです。
講座内容はペットが亡くなった後のことが中心ですが、受講後は「今いるペットの子とどう過ごすか、どのように大事に時間を過ごせばよいかと考えるようになった」と言われるそうです。
ペットを失ったとき、飼い主はどのように向き合えばよいのでしょうか。先崎さんは「気持ちを抱えきれなくなったときに理解してもらえる人に聞いてもらうこと」とお話ししてくださいました。悲しみに向き合うと生活できないため気持ちにふたをしてしまう時もあるのが普通であり、話せるときに聞いてもらうことが大切なのだそうです。
別れがつらすぎて、生前の楽しかったこともなかなか思い出せない飼い主さんも多いそうですが、「しっかり楽しかった思い出として持てるようにサポートしたい」と語ってくださいました。
最後に、高齢犬を飼われている方、お別れの時期が近づいている飼い主さんへのメッセージをお伺いしました。「不安だと思うのですが、今いる時間を大事に、飼い主さんが後悔なく、その子がその子らしくいられるように、できるだけ貴重な時間を過ごしてもらいたい。」とお話ししてくださいました。「そして不安な気持ち、つらいお気持ちは話していただくことで少し楽になるかもしれません。」とあたたかく語ってくださいました。
「この子が亡くなったらどうしよう」など、亡くなることを想像してつらくなることを「予期悲嘆」というそうです。先崎さんがおこなうさまざまな活動は、予期悲嘆を抱えながら頑張る多くの飼い主さんに必要なサポートであると強く感じたインタビューでした。
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